「スター神話」は終わったのか 中国映画市場で進む“内容重視”への変化

Must read

小林 舞
小林 舞
Nakazato, Yaizu-shi, Shizuoka | admin@suppergamez.com | Creative Editor & Content Writer with experience in website content and communication. Interested in meaningful storytelling, media trends, and audience engagement through impactful writing. 📧 Email | 💬 Facebook Chat

中国映画市場で、再び“スター依存”をめぐる議論が広がっている。

現在、中国映画界では作品ごとの興行格差が極端に広がっており、同時期公開作品でも明暗が大きく分かれている。中でも最近、中国SNSや映画ファンの間で特に話題となっているのが、「給阿嫲的情书」の大ヒットと、一部大型作品の苦戦だ。

「給阿嫲的情书」は、大スター不在にもかかわらず口コミを中心に支持を広げ、現在興行収入10億元を突破。5月25日時点では上映シェアが50%を超え、さらに拡大傾向にあると伝えられている。

一方で、同時期公開の中国映画には厳しい結果となった作品も少なくない。

その代表例として挙げられているのが、ユー・ホーウェイ(于和偉)とガオ・ユエンユエン(高円円)主演の「森中有林」だ。

同作は製作費1億元規模とも言われる大型作品で、当初は五一档(メーデー映画シーズン)を避けて公開時期を調整。しかし、公開後最初の週末興行収入は約887万元にとどまり、現在の上映シェアも4%前後と厳しい状況が続いている。

中国映画ファンの間では、「作品自体の完成度は決して低くない」という声も多い。

特に、東北地方の空気感や生活感をリアルに再現した映像演出については高く評価されており、「近年でも最も“東北らしさ”が出ている映画」という意見も見られる。

老城区、市場、雪景色、そして東北独特の生活小道具まで細かく作り込まれており、「単なる観光的東北描写ではなく、本当に生活の匂いがある」という感想も広がっている。

また、演技面でもユー・ホーウェイ、ガオ・ユエンユエン、チャオ・シャン(喬杉)らの演技変化に対する評価は比較的高い。

特に、「スターオーラを消して“普通の人間”として存在していた」という点について、中国SNSでは「近年の中国映画でも珍しいくらい地に足がついている」という声もあった。

しかし、それでも興行的には苦戦を免れなかった。

さらに、より厳しい状況となっているのがドキュメンタリー映画「我在苏州学非遗」だ。

同作は公開17日間で興行収入わずか6.3万元。全国上映数も極端に少なく、一部都市ではそもそも上映館自体が存在しない状況だったとされる。

作品は、蘇州の非物質文化遺産(非遗)をテーマにしたドキュメンタリーで、昆曲、蘇繍、碧螺春など伝統文化継承の現場を描いている。

中国レビューサイトでは、「静かだが温度のある作品」「伝統文化の現状を考えさせられる」と比較的好意的な評価も出ていた。

また、主演的立場でチェン・フェイユー(陳飛宇)を起用したことについても、「若い世代への入口としては意味があった」という意見もある。

それでも結果的には、“話題性”を市場へ変換することはできなかった。

この流れを受け、中国SNSでは再び「スター神話はすでに崩壊しているのではないか」という議論が広がっている。

かつての中国映画市場では、“トップスターを起用すれば最低ラインの興行収入は保証される”という考え方が強かった。しかし近年は、観客側の消費感覚も大きく変化している。

特に若年層では、「誰が出ているか」より、「作品に見る価値があるか」を重視する傾向が強まっていると分析されている。

実際、中国SNSでは、「今はスターを見るためだけに映画館へ行く時代ではない」「内容が弱ければどんな人気俳優でも厳しい」という声が増えている。

一方で、「給阿嫲的情书」の成功については、“素人俳優中心でも観客を動かせる”という象徴的事例として語られている。

作品には大規模スターキャストは存在せず、一部ネットインフルエンサーや新人俳優が中心。しかし、“家族感情”や“リアルな生活描写”が口コミで広がり、結果的に市場全体を巻き込むヒットとなった。

また、中国映画市場では近年、“流量スター+IP依存”への疲労感も指摘されている。

そのため、「森中有林」や「我在苏州学非遗」のような作品が苦戦したこと自体より、“なぜ良作と評価されながら市場へ届かなかったのか”という点を問題視する声も少なくない。

上映排片システム、宣伝構造、短動画時代の宣伝偏重など、中国映画市場そのものの構造問題へ議論が広がるケースも増えている。

さらに、一部ではイー・ヤンチェンシー(易烊千璽)の名前も比較対象として挙げられている。

これまで高い興行安定感を誇っていた彼でさえ、アート寄り作品「狂野时代」では1.91億元にとどまり、“トップ流量でも作品ジャンル次第では限界がある”という見方も出ている。

現在の中国映画市場は、まさに“スター中心時代”から、“内容・口コミ・感情共鳴中心時代”への移行期に入っているとも言われている。

もちろん、スターの影響力が完全になくなったわけではない。ただ、かつてのように「人気俳優=興行保証」という単純構造では、すでに市場が動かなくなり始めているという認識は、業界内でも急速に広がりつつあるようだ。

人気のある

最新記事